この饅頭は誰のものだ?

映画館で、スクリーンに突っ込みいれたくなりました。子供か!って(笑)

まっすぐなところがアルフの魅力ですが、このときばかりは……

「アルフの馬鹿!分かれよ!!(泣)」って思っちゃいました☆

 

■涙の理由■

まずは兵から。

蘇城戦は篭城戦なので、兵は、もう一年もまともに戦ってないんですよね。

兵糧を盗みに入った兵が見つかったとき、砲撃を受けるぐらいで。

でも戦闘はなくても戦は続いているので、ずっと塹壕の中にいて、お腹を空かしてる。

「おれこんなとこで何してんだろ…食い物が欲しくて兵隊になったのに。帰りてえな…」って、

すっかり気持ちが農民に戻っちゃってたんじゃないかなあ。


で、食べ物が来て、城攻めるぞって事になって、よしやるぞ!って気に…なったら…

「あれ?アルフ?うおー、アルフすごい!パン将軍は一年もかかったのに、アルフは戦わずに

相手を降参させた!じゃあ戦わなくていいんだ!」…って、また農民の気持ちに戻っちゃう。


ところが英雄アルフと上官パンの意見が食い違い、アルフは連れて行かれてしまった。

ウーヤンはパンの決断通り、投降兵を殺せと命令する。兵士は戸惑い、中々実行しない。


パンとアルフとウーヤンのやりとりを見て山軍兵たちは、この投降兵たちも元は

自分と同じ貧しい農民だってことに、気付いちゃったと思うんですよね。


しかも今は、殺さなきゃ殺される戦場の狂乱状態にあるわけでもなく、

目の前にいるのは、もう投降した人達だから「敵」ですら無い。

その相手を逃げ場のない所へ押し込めて、「戦う」のではなく「虐殺」しなければならない。

やりたくないけど、命令には従わなくちゃいけない。

困惑と同情と悲しみと生理的嫌悪感と…もう何がなんだかわからない状態で、

泣きながら、吐きながら、矢を射かける。


でもまだ兵士には、救いがあるんです。

彼らには、命令だから、やりたくないけどやってる。という逃げ場がある。

本当は、自分が食べる物を減らさないために、自分が生きのびるために殺してるんだけど、

もしかしたらそれに気付かないでいられる。


でもパンはそうじゃない。



次にウーヤン。(ちょっと残酷表現があるかも…文字でも血が苦手な方はご注意下さい)



ウーヤンは、泣き叫ぶ仲間達に共感して泣いた。


矢を射る音

甲冑を貫き、肉を裂き、骨を砕く音

兵の慟哭

断末魔の叫び

吐瀉物と大量の血の臭い

それらに包まれながら、ウーヤンはひたすらに

矢を射かけろと号令し続ける。


頭の中で、

兄上は正しい 兄上は正しい 兄上は正しい

と繰り返しながら。




ウーヤンは、この凄絶な情景を作り出す立場の人間です。

泣く兵に共感しても、虐殺を続けろと命令しなければなりません。

彼は大きく目を見開いて、涙を流しながら、目の前の惨状を凝視し続けます。

彼の場合は、逆に目を背けてしまったら、命令することは出来なかったのかも。

ウーヤンの拠り所は「兄上は正しい」だから。


兄上は正しい、と信じて、助けろと言うアルフより殺せというパンを選んだのだから、

目の前の状況を作り出すことも、正しい行いだ。と信じる必要があって

迷ったりくじけたりして目を背ければ、これは正しくないと認めたようなもので。

矢を射ろと命じ続けるために、ウーヤンは最後まで、この状況を見続けたと思います。



そして、アルフ。

最初見たときは、上の2コマ絵の通り「アルフの馬鹿!!」って思ったんですよ。

パンが沈痛な面持ちで誠心誠意説明して、さあ、「この饅頭は誰の物だ?」って聞くのに

間髪要れずに「知るか!」ですもの(笑)。勝手にとんでもない約束してきて、その上

「知るか!やれよ!」って、そりゃ無責任すぎるだろ!って。


アルフが蘇城に乗り込んだ時は兵糧が届く前だったので、4000人を受け入れても

養えないってことはわかってたはず。真っ直ぐで熱い男アルフだから、一時の情に

流されて……にしても…流され過ぎな気がして、何か他に理由があるのかなあ…と、

考えてて、感じ方が変ってきました。


アルフは兵になる前盗賊で、自分が生きるためと仲間である村人達を養うため、

人を殺して食糧を奪ってくる生活をしてた。そのアルフが、仲間にならない投降兵に

食べ物を分ける気になるかな?ってところが引っかかってきました。

それは勿論、城主と約束したから…なんですが、人を殺さないと食糧が手に入らないような

厳しい環境を生きてたアルフが、「仲間にならない。でも饅頭はよこせ」っていう兵に

饅頭をやれって言うのは…違和感を感じたんですよ。

昔のアルフなら、仲間以外は敵なので、仲間にならないなら殺す!とか言ってそう

なんですよね。


昔のアルフと、今のアルフ…変ったのはいつなんだろう?あんまり変ってない気が

してたけど…。


ってそこまで考えて、あの時か!って、思いつきました。

舒城で、女を犯した兵を処刑する場面と、その墓の前で。

「誰も殴られなくていい世を作る」というパンの話。

「おれは今まで奪うために人を殺してきた。善のために殺す事もあると初めて知った」

というアルフの話。


ここで…パンの語る未来に共感して、「仲間でなくても貧しい民たちを救いたい」っていう

気持ちが芽生えて、共に戦う数年のうちにその想いは育って、そして蘇城で…


アルフは城主の部屋に行くまでに、蘇城の荒廃した様子を見た。

自分達が包囲していることで、民の生活を奪い、命を奪っている。

城主は自分が死に、城を明け渡すから兵を助けてくれと言う。

山軍にも兵糧は無い。助けられるかわからない。でも、もう戦うつもりのない兵を…

元は貧しい農民だった者たちを…殺したくない。救ってやりたい。

誰も虐げられない、誰も殴られなくていい世の中。

それはおれが、兄上と共に抱いてきた未来だから。


って思って…昔のアルフだったらしない約束をしてしまった、のだとしたら。

パンの言う「誰も殴られなくていい世」を、アルフがそう言うふうに理解して

いたんだとしたら…悲しすぎる……。


二人とも同じ未来を違うように信じ、裏切られたと思い、きっと同じように傷ついた。

本当は裏切ったわけじゃなく、

パンが描く未来は、アルフが見ていた未来よりずっと先にあった

ってことだと思うんだけど…やっぱ裏切られたと思うよね。



で、城を出てきたアルフは、兵糧は無いと思ってたのに十日分あると聞いて、

魁と取引したのか!!って怒るけど、あるなら、投降兵に分けてやれると思った。

でもその兵糧は南京攻略に使うと聞いて耳を疑う。


城主との約束は、パンを信じて下した決断だったのに。裏切られた…!と思っただろうな。

耳触りのいい未来を語るだけ語っておいて、結局は自分も民を殺すのか、って。


パンにとっては自軍に入らない投降兵は敵兵と同じことだから…なんだけど、

アルフは、もう武装解除してるんだから民だろ!?って思うし蘇城のひどい有様を見てるから

これ以上犠牲は出したくなくて必死だし…段々激昂してきて、「この饅頭は誰のだ?」

「知るか!」みたいなやりとりになってくる。

そう思うと、何わがまま言ってんだ!子供か!って感じじゃなくなってくるなあ…。



蘇城の虐殺のあと、城の外で、泣きはらした目でパンを見て

「誰も殴られなくていいといった」

って言うアルフ。

だってしょうがないじゃん!パンだって辛いんだよ!と思えないほど悲しく見えてきました…


アルフごめん。なんでもっと早く気付かなかったのかなあ。

情に流されてそんな安請け合いしてどうする!って思ってた…。


でも…結局、アルフのやり方じゃ、兵も民も救えないんだよね。

10日分の食糧を半分投降兵に分けて、さらに蘇城の飢えた民にわけて

残りを持って南京に進攻して、魁軍より先に南京を落とせるか…というと…多分無理。


もし投降兵を生かしておいたら、蘇城を立ったあとに後ろから攻撃されたら山軍は壊滅する

という不安がそのまま。そんな不安の種である元敵兵に自分達の食糧をやってしまった

ってことで、兵から不平不満が出て士気は下がるし、南京攻略戦では兵糧不足で

力が出ない状態になってる。

南京は太平軍の本拠地だから、抵抗も激しい。でも迅速に攻略して乱を収束させる

までやらないと、混乱に乗じて魁軍が先に入城しちゃう。

そしたら南京は蹂躙されて血の海になり、南京の金も食糧も全部魁軍のもの。

蘇城に残る4000人の兵と民が、山軍の分けた食糧を食べつくした後も、南京から

救援物資を送ることも出来ない。

山軍兵も、南京の太平軍の兵も、南京の民も、蘇城の4000人の兵も、蘇城の民も、

みんな救えない。

アルフの言う通りに4000人に饅頭を分け与えたとしても、一時しのぎにしかならなかった

と思う。

だけど、アルフはその事に気づかなかった。説明されて気付いたとしても、心情的に納得

できなくて、パンに怒りをぶつける。

パンはアルフに背を向け歩き出す。そしてウーヤンに向かって静かに言う。

「最後だ。食わせてやろう」


これがパンの最大限の歩み寄り。これから殺す兵に食べ物をやる事なんて、合理的な判断を

下してきたパンの中には無かった答えだけど、弟アルフの願いを無視することは出来なくて…

でもアルフにとっては、パンが兵を生かさなければ、何を譲歩したところで何も変らない。

なおも言い募ろうとしたアルフの前にウーヤンが立ちはだかって言う。

「兄上が正しい」

アルフはパンだけでなく、ウーヤンにまで裏切られた気持ちで…ウーヤンを殴り…

鎖につながれた後も、泣き叫ぶ。


…うーん。最初、感想書き始めたとき、このページのアルフのとこは「殺すな」って気持ち。

はい、終わり。のつもりだったんですけど、一番長くなっちゃいました(笑)



…そして、パンの場合。


アルフが蘇城から出てきたとき、英雄的行為をして出てきたんだから、もっと喜んで

笑顔があってもいいはずなのに、そうじゃなかった。パンは訝る。


で、「開門して饅頭をやれ!」「だめだ!」と怒鳴りあい、アルフが連れて行かれた後、

パンは、アルフの言った「英雄になりたい」は、純粋に仲間を助けたいという

気持ちだったのだろう…と気が付く。…というか、思い出す。


ああそうだ。アルフは、こういう男だったのだ。

一切の見栄も打算もなく、ただ真っ直ぐに仲間を守り、約束を果たそうとする。


そんな純朴な男を戦場に引きずり出したのは、自分だ。


…パンは、他人の痛みに心を砕きすぎる人だと思います。

野心家として生きるには、優しすぎるんじゃないかなあ…。

投名状を誓う時、「この顔を覚えて来世で復讐を果たせ」って言いますよね。

一国を動かそうとする野心家が、一介の通行人に自分の来世をあげちゃうって…

…来世を信じてないとか言われたらそれまでですけど(笑)

他にも、舒城で処刑した兵の墓の前に悲痛な面持ちでひざまづいてたり、何しろ一人一人に

心を痛めますよね。


それが今回は一気に4000人の命です。それプラス、山軍兵たちの気持ち。

ウーヤンの気持ち。アルフの心。



パンは、クイ将軍のように私利私欲のために兵を動かしたり、配下を駒としかみていない

三大臣のようには生きられない。


「やりたくないけど命令だから」を支えに、慟哭し、矢を射る兵達

「兄上は正しい」を拠り所として、泣きながら号令するウーヤン

喉が破れるほど、殺すなと叫び続けるアルフ

そして、殺されてゆく投降兵達。

そのすべての苦しみを、パンは背負う。

これは、自分の決断だから。



誰もが虐げられることのない世を作る。

その大義のために動かすのは、貧しい農民出身の兵達であり…

その兵達が戦で殺す敵兵もまた同じ。

そして今自分は、自分が救いたいと願う民を、同じ民に殺させている。

元は民でも今は兵士。

それは詭弁だ。

この国の人間を殺していることに変わりはない。

それはわかっている。

でもそう信じ、それを乗り越えなければ、新しい世は実現しない。



…パンの心は戦うたびに血を流すけれど、それを誰にも悟られてはならない。

部下の支えであり、拠り所である自分が心弱さを見せれば、兵は迷い、

命をかけて戦う事はできないから。


幾多の死を背負い、その重さにどれほど苦しんでも、

膝をつくことも、よすがを求める事もせず…

ただ独り、自分の足で立ち続ける。


涙は見せてはならない。

でも、それでも、この4000人の命を奪うときだけは耐え兼ねて…

誰からも顔を背けて、ひと筋の涙を流す。





もー…このシーン、「パン!パン、もういい!もういいから!!」って感じでした…

将軍から一個人に戻った時、ひざを貸して思いっきり泣かせてあげたいです…。





えーと、重くなっちゃったので、もいっちょ饅頭ネタ行きます!


パンの逆襲。

アルフ、数学弱そうなんで。あ、これ算数レベルですね(笑)



ところで、シー達がパンにむかって饅頭投げるシーンがありますが、

あれって…もうアルフが少しやっちゃってたってことなのかしら…の疑問が解けません。