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彼ら4人と私はVIPルームに案内された。

「ここならゆっくり話せる。あらためて…さっきは悪かった、冒険王」

リックは握手を求めてきた。最悪の出会いだと思ったが、話のわかる相手のようだ。これなら最初の目論見通り『冒険家同士打ち解けて世間話をして』ダイヤのことを聞き出すのも、可能かと思われた。しかし…

「前置きは抜きだ。本題に入ろう。冒険王、君は中国政府に言われて、俺たちを探りに来たんだろ?」

驚いた。いや…当然と言うべきか。自分が事件にかかわっている自覚があるのなら、探りに来る人物がいると考えるのが普通だ。それでも逃げずに話をしたいと言うことは、彼らは事件について語るつもりなのだろうか。…どちらにしろ、ここまで来ては誤魔化すわけには行かないだろう。下手な小細工はやめにした。

「ばれましたか」
「監視されてるのは知ってた。そのうち誰か接触してくるんじゃないかと思ってたんだ。来たのが君でよかった」
「それでは…事件について、話して貰えるんですね?」
「ああ。頭の固い役人じゃ信じないだろうが、多分君にならわかる話だ」

そして彼は話し出した。
自然の力を操る魔力を得た皇帝。それを呪った呪術師、ツイ・ユアン。不死の泉で皇帝を復活させようと企むヤン将軍。将軍の資金援助で、アレックスとウィルソン教授は皇帝の墓を発見した。さらに ウィルソンは英国外務省を動かし、不死の泉へ導く『シャングリラの瞳』をオコーネル夫妻に運ばせた。上海博物館でダイヤは将軍の手に渡り、皇帝は目覚め、教授は殺された。オコーネル一家は将軍と皇帝を追い、完全復活を阻止しようとするが…途中で雪崩に巻き込まれて、ダイヤは行方不明。皇帝は不死の泉にたどりつき、完全に蘇った。しかし古代から生き続けていたツイ・ユアンの協力を得て、皇帝を倒すことができた。そんな内容だった。

「ざっとこんなもんだな。信じるも信じないも、君の自由だ。だが俺は真実を話した」

確かに頭の固い役人なら、こんな話は彼の作り話だと思うだろう。しかし私は、信じることができる。
遺跡、ダイヤ、軍の動き、これら一連の出来事は、やはり全てつながっていたのだ。
…どうするべきか、私は迷った。

「その話…信じましょう。しかし、それで全部ですか?」
「ああ。これ以上は、何を聞かれても話せない。覚えてないからな。そうだろ、エヴリン」
「ええ、本当。何も覚えてないわ」
「父さんも母さんも、ボケるにはまだ早いよ。でも僕もだめだ、全然覚えてない」
「つまり…ダイヤを落とした場所は、覚えていないと?」

リックは軽くウィンクして言った。

「落し物をした場所を覚えていたら、取りに戻るさ。…冒険王、君にはわかるだろう?」
「…ええ」


彼らはこう言っているのだ。「シャングリラへの道を教える気はない」と。シャングリラは人が踏み荒らしてはならない土地だ。不死の泉も人の手に余る。そこへ人を近づけることはしたくないと…。

それには私も同感だった。私だって、真教の在り処を聞かれたら、同じ事を言うだろう。実際あの事件の後には、真教と経箱は所在不明という報告書を提出したのだ。ユンフンが命がけで悪人の手から守った物を、軍に利用などさせたくない。

そういえば…

「ツイ・ユアンという人はどうなったのです?」

皇帝から不死の泉を守ろうとしていた女性。どこかユンフンと重なり…思わず質問していた。

「それを聞いてどうするつもり!?」

思いもよらない所から声が帰ってきた。それまで部屋の隅にいた、アレックスの彼女のリンという女性が…まるで仇敵に向けるような、憎悪の眼差しで私を見ていた。

「リン、君は黙って」
「アレックス、だけど…」
「君は関係ないんだ、いいね」

私にはわかった。そもそもこの場にいるという事は、事件と関係ある人間だということだが…どうやら彼女はこの事件に、非常に深くかかわっている。しかもツイ・ユアンにかかわりがあるなら、不死の泉の在り処を知っているかも知れないのだ。

オコーネル夫妻は、私を強い眼差しで見つめた。彼女を守ろうとする意思が感じられた。

「死んだよ。彼女は不死の命を捨てて、皇帝と戦って…死んだ」
「そうですか…それは、よかった」
「なんですって!」
「リン!」
「失礼、そういう意味ではないのです。ただ…愛する人もなく、独りで生き続けるのはさぞ辛かっただろうと…。それだけです」


部屋にいた全員が沈黙した。

数秒ののち、私は帽子を手に取り、立ち上がった。

「せっかくの夜をお邪魔してしまいましたね、そろそろ私は退散します」
「今度、うるさいやつらがいない時にゆっくり会いたいもんだな。次は君の冒険も聞かせてくれよ」
「そうですね。でも私もかなり忘れっぽくて…自分の冒険どころか、今日聞いた話もほとんど覚えていない」

リックと私は顔を見合わせて、ニヤリと笑った。
リックの肩越しにリンが見えた。その顔からは、憎しみは消えていた。

私は部屋を出ようとして…最後にひとつ、どうしても気になることを聞いた。

「ひとつだけ、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「私は一体、誰に似ているんです?」

4人は顔を見合わせて…そのあと、ゆっくりと答えた。

「…『呪われた皇帝』、さ」