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彼らに接触するのは、難しくなかった。張り付いている見張りの報告から、オコーネル一家がよく『イムホテップ』というナイトクラブに現れるとわかっていたからだ。今の所、姿を隠すつもりも、急いで帰国する様子もないらしい。

もし彼らが…行方不明のダイヤや教授の死に関してやましい所があるのなら、これほど平然と上海に滞在してはいられまい。彼らは無関係か、関係していたとしても何か事情があってのことだろう。もしくは…どんな犯罪を犯しても動じない、大悪党なのかも知れないが。そんなことを考えながら、私は『クラブ・イムホテップ』に向かった。

店に入ると、エジプト風の内装やエジプト風の衣装で踊るダンサー達が目に入った。さすが、木乃伊で有名なオコーネル夫妻の兄がはじめた店だ。(最近経営者が変わったらしい。これは情報通のチュンから聞いた。)


「おっと、失礼」

店に入ってきた男が、私の背にぶつかった。案内を待っていたとはいえ、入り口付近で立っていた私も悪い。

「いえ、こちらこそ申し訳ない」
「…!!?お…お前、生きてたのか…!?」
「え?」
「どうしたの、リック…ああっ?!ちょっと、嘘でしょう!」
「父さんも母さんも、そんな所に立ってちゃ邪魔だよ、店に入れな…」
「アレックス、来るな!」

叫ぶと、突然男は銃を抜いた。本気だ。反射的に、私はその銃を蹴り上げていた。
横からナイフで切りかかる女性の手を払い、飛び掛ってくる男の腕をつかんで捻りあげた。

「リック!」
「父さん!」


…どうやらこの三人が、オコーネル一家らしい。最悪の出会いだ。

私は男の腕を掴んだまま言った。

「あなたが、ミスター・オコーネル?」
「だったらどう…ん?」
「私とあなたは初対面です。何か勘違いをされているようだ」
「リック…この人、違うわ」
「ああ、そうみたいだな」

私はリック・オコーネルの腕を離した。彼はバツが悪そうな顔で、腕を何度か振った。

「失礼、あなたが本気だったので、つい」
「いや、大丈夫。ところで君は何者だ?只者じゃないな」
「ちょっとリック、失礼よ。あの…本当にごめんなさい、私たちとんでもない人違いを」
「誤解が解ければいいのです。私の方こそ、とっさの事とはいえ、ご婦人に手荒な真似を…お怪我はありませんでしたか?」
「ええ…なんともありませんわ。紳士的な方ね」
「おいおい。さっきの蹴りも速かったが、どうやら手も速いらしいな?」

リック・オコーネルはニヤリと口の端を吊り上げた。敵に対しては容赦ないが、基本的には大雑把で気さくな性格のようだ。

「リック!」
「エヴリン、冗談だよ。君、さっきは悪かった。君があんまりある人物に似てたんでね」
「そのようですね」
「自己紹介の必要もないみたいだが…俺はリック・オコーネル。妻のエヴリン。これは息子のアレックス。隣が彼女のリン」
「私はワイ博士。冒険王とも呼ばれています」
「冒険王!君があの冒険王か!」
「まあ!ワイ博士、お目にかかれて光栄ですわ」
「こちらこそ」

彼らの後ろからアレックスが一歩踏み出してきて、言った。

「父さん、あのさ、歴史的邂逅を喜ぶのもいいんだけど…僕たちすっかり、注目の的じゃない?」

アレックスの言葉で店を見渡すと、店内の客は皆我々を凝視していた。
銃を持ち出したり叫んだり、立ち回りを演じたのだから、無理も無い。
支配人らしき男が近寄ってきた。

「おい!店で喧嘩は…」
「喧嘩じゃないぜ、マッド・ドッグ。えーと…」

私の肩に手をまわし、リックが言った。

「挨拶してただけさ。こいつ、古い友達なんだ。話したいから、ちょっと部屋貸してくれないか?」



リックがすぐやられちゃうのは、リックが弱いわけじゃなくて…超至近距離だと、「抜く・構える・引き金を引く」の三動作いる銃より、頭を下げてよけつつ同時に蹴り上げる方が速かった…ということにして下さい☆あと、皇帝のそっくりさんが現れたのでリックは動揺しちゃったのです。決してものすごい実力差があるわけじゃないですよ〜。くれぐれも「ワイ博士にすぐやられたリックにやられちゃった皇帝って…」とか思わないで下さいまし(笑)